健康保険の傷病手当金
1.はじめに
業務外の傷病で会社員等が休業する場合、通常は年次有給休暇を取得して療養します。しかしその期間が長引いて職場に復帰するメドが立たない場合は、休職となって給料が支払われない状態となり、健康保険から傷病手当金を受給することになります。今回は制度内容や新型コロナウイルス感染症に関する留意点について解説します。
2. 受給要件
傷病手当金は、就労不能による収入の減少を補償する、健康保険の被保険者に対する法定給付です。したがって、自営業者や被保険者が扶養している人(被扶養者)に対しては支給されません。
傷病手当金を受給するためには、以下の4つの要件を満たすことが必要です。
(1) 業務外のケガや病気で療養中であること
業務上・通勤途上のケガや病気は国の労災保険で補償されますので、傷病手当金の対象外です。療養と認められるためには、医療機関に入院・通院(自宅療養)し、医師の治療を受けたり服薬したりしていることが必要です。
(2) ケガや病気の療養のために仕事に就けないこと
医師の意見をもとに被保険者の仕事の内容を考慮して、仕事に就くことができるかどうかを保険者が決定します。
(3) 連続する3日間を含み4日以上就労不能であること
業務外のケガや病気で連続して3日間(待期期間)の就労不能後、4日以上就労不能(待期期間後出勤日があっても可)であることが条件です。待期期間に公休日や年次有給休暇も含まれますが、傷病手当金の支給対象外です。
(4) 休業期間について給与の支払いがないこと
業務外のケガや病気よる就労不能で、給料の支払いがないことが必要です。減給された場合は、給料の1日当たりの金額が、傷病手当金の1日当たりの金額よりも少なければ、その差額が支給されます。
3.受給金額
就労不能となった1日につき、被保険者が給付を受ける月以前12ヵ月間の各月の標準報酬月額の平均額を30で割った金額の3分の2が支払われます。標準報酬月額とは、健康保険料の算出の基礎となる給料の月額のことで、毎年4月~6月の通勤手当を含むすべての給料の平均額を、所定の表に当てはめた月額です。
例えば、受給の直近12ヵ月間の平均標準報酬月額が36万円の場合、36万円÷30日×2/3=8,000円となります。加入している健康保険組合によっては、付加給付という上乗せ額があります。なお、傷病手当金は非課税です。
4.受給期間
待期期間後4日目から傷病手当金を受給できます。その期間は、同一のケガまたは病気に関して受給開始日から起算して1年6ヵ月が限度です。この1年6ヵ月は、傷病手当金の支給の実日数ではなく、暦の上での日数です。この期間中に就業可能日があって実際に就業したとしても、受給開始日から1年6ヵ月経過後は傷病手当金は支給されません。加入している健康保険組合によっては、付加給付で受給期間が1年6ヵ月より長くなっています。
5.新型コロナウイルス感染症拡大時の留意点
新型コロナウイルス感染症(当該感染症)に関する取り扱いは、厚生労働省からQ&Aの形で指針が示されています。当該感染症に罹患した場合はもちろん、罹患が疑われるために自宅療養している期間についても、要件を満たすことにより、傷病手当金の受給対象になるとしています。やむを得ない理由で医療機関の受診ができず、医師の意見書を添付できない場合は、事情を勘案して事業主の証明等があれば認められる場合があります。ただし、事業所全体が休業した場合や、家族が罹患したために就労していない期間については、対象となる健康保険の被保険者自身が当該感染症により就労不能と認められない限り、傷病手当金は受給できません。
6.さいごに
現在、1週の労働時間が正社員の4分の3以上かつ1カ月の労働日数が正社員の4分の3以上の人は健康保険に加入することになります。この条件を満たさない場合でも、常時500人を超える被保険者を使用している企業に勤務し、1週の所定労働時間が20時間以上で月額賃金が88,000円以上であることなどの条件をすべて満たした場合も、健康保険に加入する必要があります。
2022年10月から、対象となる企業の被保険者の人数が引き下げられ、健康保険の被保険者となる可能性が高くなります。保険料負担を要しますが、その分、就労不能による傷病手当金を受給できる環境が整います。
就労不能となった場合、傷病手当金だけでは生活費等が不足することも考えなければなりません。自営業者が加入する国民健康保険の制度では、そもそも傷病手当金がありません。そのために、保険商品を活用して、十分な保障が得られるようにしておくことも、ライフプランニングでは重要なポイントです。